ね》に痛いと感ずるほど、両脚が、太く冷たかった。男は半町ばかり先を行く。三次、撥泥《はね》を上げて急いだ。
五
一度旅籠町の通りへ出て、あれから森田町天王町、瓦町を一丁目まで突っ切ったから、さては橋を渡って浅草御門へかかるかなと思いながら尾《つ》いて行くと、代地の角から右へ折れて、川に沿うて福井町を酒井左衛門様の下屋敷前へ出た。
これから先は武家邸が多い。こんな人間は要がないはずだ。が、左に新橋《あたらしばし》がある。これを渡れば神田日本橋とどこまでも伸されるから、これならまず不思議はあるまい。
ところが、男はあたらし橋も渡らずに、佐竹板倉両侯の塀下を通って、佐久間町二丁目も過ぎ、角の番屋の前から右にきれた。
松永町だ。二軒目に永寿庵という蕎麦屋《そばや》がある。そこまで行くと、男はいっそう傘を窄《すぼ》めて、横手の路地へはいって行った。
路地の奥、素人家作《しもたやづく》りの一軒建て、千本格子に磨きがきいて、ちょいと小粋《こいき》な住居《すまい》だった。
これへ男の姿が消えたのを見澄《みす》ました早耳三次、窓ぎわへぴったり身を寄せて、家内《なか》のようすに
前へ
次へ
全25ページ中21ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング