二人は待った。
 番頭と三次、来るか来ないか解らない昨日の伽羅油の女を、ここでこうして、気永に待ちかまえることになった。
 来るか来ないかはわからない。が、三次は来るという自信を持っていた。しかし、いつまで経っても女は来なかった。
 半時過ぎた。一時経った。その間に、女の客も二、三人あった。けれど、それらしい女は影も形も見せなかった。三次は焦《じ》れだした。ことによると大事を踏んで、午後《ひるすぎ》までには来ないかもしれない、もうここらで切上げようかしら、こうも思ってはみたものの、死んだお藤や、伊助の狂乱を考えると、ここまで漕ぎつけて打ち切ることは、さすがに三次にはできなかった。
「へん、こうなったら根較べだ。」
 心の中で独言をいって、三次はいっそう腰を落着けた。黙ってじい[#「じい」に傍点]と事件の連鎖《つながり》を見つめているうちに、三次には万事がわかったような気がした。今はただ、三次は待っていた。

      四

 雨だった。いつの間にか雨に変っていた。冷たい雨が音を立てて、沛然《はいぜん》と八百八町を叩いていた。
「好いお湿《しめ》りだ、と言いてえが、これじゃあ道路《みち
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