番頭と向き合った。二、三人客がはいって来た。三次も客と見せかけるために、前へいろいろな櫛《くし》笄《こうがい》の類を持ち出すように頼んで、それをあれこれと手にとりながら、声を潜めて言った。
「昨日煎餅屋の女房が来た時に出て行こうとした女、自身から進んで身柄取調べを受けた女、その女がお店で買った物を、あっし[#「あっし」に傍点]が一つ言い当てて見せやしょうか――こうっ、固煉《かたね》りの伽羅油だろう? どうだ?」
「ああそうでした。なるほどそうです。伽羅を一つお買い下すった。だが親分、どうしてそんなことがおわかりですい? それがまた、なんの関係《かかりあい》になるんですい?」
「その女は、昨夜あとからまた来たかえ?」
「いいえ。」
「よし。」と三次は何事か決心したように、「お前さん、その女の面にゃあ見覚えがあろうの?」
「さあ。べつにこれといって言いたてるところもございませんが、なにしろ奥まで通したんですから、見ればそれ[#「それ」に傍点]とはわかりましょう。」
「うん。女《やつ》が来たら咳払《せきばれ》えして下せえよ。いいけえ、頼んだぜ。」
番頭は眼で承知のむねを示した。
それから
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