んねん》に拭きますんで、へえ。」
それにしては、今三次がたくさんの珊瑚の中からそれ[#「それ」に傍点]と図星を指した問題の品に、伽羅《きゃら》油の滑りとにおいが残っているのが、不思議であった。お藤の帯の裏にも、伽羅油の濃い染みがあったことを、三次は思い返していた。
一つ解《ほ》ぐれれば、あとはわけはない。
眉を顰《しか》めて思案に耽《ふけ》っているうちに、早耳三次、急に活気を呈してきた。見得《けんとく》の立った証拠ににわかに天下御免の伝法風になった御用聞き三次、ちょっと細工をするんだからとばかり何にも言わずに、番頭を通して奥から碁石を一つ借り受けた。それから、例の框《かまち》の上の飾台《だい》の前に立って、何度となく離れたり蹲踞《しゃが》んだりして眺めていたが、やにわに台の下を覗き込んだ。
その、一寸ほど出張った上板の右の裏に、こってりと伽羅油の固まりが塗ってある。冬分のことだから空気が冷えている。油はすこしも溶けていない。にっこり[#「にっこり」に傍点]笑った三次、そこへ、件《くだん》の碁石を貼りつけた。
そうしておいて、ずっ[#「ずっ」に傍点]と離れたところに腰をかけて、
前へ
次へ
全25ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング