が、そのうちに、
「その昨日の珊瑚もこのなかにありますかえ。」
と訊いた。番頭が、ありますと答えると、三次は、
「どれだか、あっしが当ててみせよう。」
と言いながら、一つ一つ手にとって指頭で触ってみたり、鼻へ当てて嗅いだりしていたが、やがて、そのうちの一つを掌《てのひら》へ載せて、
「これだろう、え?」
と言って、番頭の眼の前へ突き出した。番頭はびっくりして、頷首《うなず》いた。
「へえい! こりゃ驚いた。どうしてそれ[#「それ」に傍点]だとわかりました?」
「ま、そんなこたあどうでも好《え》えやな。それよりゃあ番頭さん、珊瑚が無えとお前さんが言いだした時、煎餅屋の女房はどうしましたえ。」
「愕然《ぎょっ》として突っ立ちました。」
「台《でえ》の傍にかけてたろう、え?」
「はい。この台のそばに腰かけていましたが、珊瑚が失くなったと騒ぎだしたら、あわてて起ち上りました。」
三次はしばらく考えた後、
「この珊瑚珠《さんごだま》あ毎日拭くんでがしょうな?」
「ええ、ええ、それは申すまでもございません。へえ、毎朝お蔵から出して台へ並べる時に、手前自身で紅絹《もみ》の布《きれ》で丹念《た
前へ
次へ
全25ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング