て、奥の一間で衣類なぞを検《み》てみたが、もちろん品物は出てこなかった。女はふん[#「ふん」に傍点]と鼻を高くして、下女を連れて帰って行った。そこで、自然の順序として、今度は、煎餅屋の女房をしらべさせて貰うことになったが、このほうは泣いて手を触れさせないばかりかそのうちに隙を見て逃げて帰った。身に暗いところさえなければ嫌疑《うたがい》を霽《は》らすためにもここは自分から進んで調べてくれと出なければならないところを、これはいよいよもって怪しいとあって、それからすぐに跡を追って家へ行って、夫《おっと》立会いの上で身体《からだ》を審《しら》べてみたら、案の定、乳の下の帯の間から、失くなった珊瑚が出てきた。ともかく珊瑚が戻ったのだから、今度だけは内済にして、そのうえ別に強談《ごうだん》もしなかったという。あの内儀《おかみ》がゆうべ自殺したと聞いて、番頭は不思議そうな顔をしていた。
台の上には、他の物と一しょに、丸にい[#「い」に傍点]の字の田之助《たゆう》珊瑚が五つ六つ飾ってある。大きさも意匠《いしょう》もみな同じようで、帯留の前飾りにできたものだった。三次は黙ってそれを凝視《みつ》めていた
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