間に立つと三尺ほどの高さで、被《かぶ》せ板が左右に一寸ほど食《は》み出ているぐあいが、なんのことはない、経机の形だった。
 大店だから三次もなにかと出入りすることがあったが、いちいち店の者の顔を視覚《おぼ》えているほどではなかったので、三次が、身分を明かして根掘り葉掘り訊き出すまでは、亀安のほうでも、昨日のことについては容易に口を開こうとはしなかった。
 が、煎餅屋の女房が身投げして、それについて花川戸の早耳親分が出張って来たとあっては、何もかも割って話さざるを得ない。
 昨日の午後、というよりも夕方だった。
 煎餅屋の女房が買物に来て、根掛けを選んでいるうちに、ふ[#「ふ」に傍点]と見ると、今まで台の上にあったうし[#「うし」に傍点]紅珊瑚が一つ足らなくなっている。で、小僧を励《はげ》ましてそこらを捜して見たが見当らない。すると、前から来ていて買物を済まして、その時出て行こうとしていたお妾《めかけ》ふうの粋な女が、供の下女と一しょに引っ返して来て、こういう事件《こと》ができた以上、このまま帰るのは気持ちが悪いから、気のすむように身柄を審べて貰いたいとかなり皮肉に申し出た。店では恐縮し
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