き、田之助《たゆう》全盛の時流に投じた、なにしろ金二十五両という亀安自慢の売出物だったとのこと。
 伊助の口からこれだけ聞出すと、早耳三次、そそくさ[#「そそくさ」に傍点]と瓦屋の家を出た。
 明けにも間がある。何かしきりに考えながら帰路《かえり》を急いで、三次は花川戸の自宅《いえ》を起した。

      三

 紺《こん》の亀甲《きっこう》の結城《ゆうき》、茶博多《ちゃはかた》の帯を甲斐《かい》の口に、渋く堅気に※[#「にんべん+扮のつくり」、第3水準1−14−9]《つく》った三次、夜が明けるが早いか亀安の暖簾《のれん》を潜った。
 四十あまりの大番頭が端近の火鉢に凭《もた》れて店番しているのを見て、三次は、ははあ、これが昨日瓦屋へ談じ込んで行った白鼠だな、と思った。
 上り框《がまち》へ腰を下ろしながら見ると、上り際の縁板の上へ出して、畳から高さ一尺ほどの紫檀《したん》の台が置いてあって、玳瑁《たいまい》の櫛や翡翠《ひすい》象牙《ぞうげ》水晶《すいしょう》瑪瑙《めのう》をはじめ、金銀の細工物など、値の張った流行《はやり》の品が、客の眼を惹くように並べてあった。台の上部《うえ》は土
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