人の帯を裏表審べていたが、やがて、つ[#「つ」に傍点]と顔を上げると、
「伊助どん、この家に、固煉《かたね》りの鬢付《びんつ》け伽羅油《きゃらあぶら》があるかえ。」
「さあ――お藤は伽羅は使わなかったようですが。」
「うん。そうだろ。こりゃあちっと詮議してみべえか。もしお藤さんが潔白《けっぱく》となりゃあ、お前《めえ》に助太刀して仇敵討ちだ。存外おもしれえ狂言があるかもしれねえ。まま明日まで待っておくんなせえ。」
口唇へ付けるうし[#「うし」に傍点]紅《べに》は、寒《かん》の丑《うし》の日に搾《しぼ》った牛の血から作った物が載りも光沢《つや》も一番好いとなっているが、これから由来して、寒中の丑の日に水揚げした珊瑚は、地色が深くて肌理《きめ》が細かく、その上、ことのほか凝《こ》りが固いが、細工がきくところから、これを丑紅珊瑚と呼んで、好事《こうず》な女たちのあいだに此上《こよ》なく珍重されていた。ことに蔵前の亀安と言えばこの紅珊瑚の細工で売出した老舗、今日問題になった品もうし[#「うし」に傍点]紅物で、細長い平たい面へ九にい[#「い」に傍点]の字の紀国屋《たのすけ》の紋を彫った若意気向
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