》に紛《まぎ》れて追い越した。橋の上を老人らしい侍が行く。その影のように、別の侍が後から刻《きざ》み足に吸い寄ったと思う間に、先なる老人の頭上高く白い光りが閃めいた。が、この時、三次は夢中で長身痩躯の侍の背中に抱きついていた。
 三次と老人を相手に侍はかなり暴れたけれども、橋の上だから霙で辷《すべ》って足場が悪い。そのうちに悪運つきたか、不覚にも刀を取り落した。そこへ蜻蛉の辰が息杖を持って駈け付けて、
「こん畜生、さんぴん[#「さんぴん」に傍点]奴《め》!」
 と侍を打据えにかかると、うるさくなったものか侍は大手を拡げて闘意のないことを示したが、それも一瞬、いきなり脱兎《だっと》のように遁《に》げだした。足を狙って辰が杖を投げた。それが絡んで※[#「てへん+堂」、第4水準2−13−41]《どう》と倒れた。三次が飛んで行って押さえ込んだ。
 老人の提灯を突きつけて頭巾を剥《は》いだ時、驚いたのは三次でなくて辰だった。この、袈裟がけ斬りの侍こそ、相棒の若い駕籠屋であったのである。しかも、泥だらけな法被を着た捕親が今朝の花川戸であったから、辰は、それこそ蜻蛉のように大きな眼玉をぱちくり[#「
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