その財産も、おおかたあちこちの資本《もとで》にまわしてあるのだよ。何でも、誰か人が立って、おせい様になりかわってそのほうのめんどうを見てるてえ話だ。おせい様にまかせられて、その男がおせい様の金を動かしているということだ。だいぶおせい様のために利をあげるてえことだから、かなり腕のすごい野郎に相違ねえのだ」
「そうでございますかねえ。その人は、腕もすごうございましょうが、ずいぶんと正直なお人でございますねえ」
「正直といえば正直だろうよ。あの、よろずにぼうっ[#「ぼうっ」に傍点]としているおせい様の金を、長年預かって間違えのねえばかりか、いい利を生ましちゃあきちんきちん[#「きちんきちん」に傍点]とおせい様へ知らせるというのだからな。小判を上手に使えば、小判が小判を生むのだ。その男は、しっかりそこらのこつ[#「こつ」に傍点]を呑みこんでいて、おせい様に、遊びながらもうけさせてきたのだ。
 その男の扱い巧者で、先代の遺《のこ》した雑賀屋の財産は、おせい様がふところ手をしているうちに、今じゃあもう、倍にはなっているだろうとのことだ。それも、きわだってどうしたというのでもねえ。そこここの小商人《
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