こあきんど》に貸しつけて、うまく金の糸を引いただけだそうだから、まあこれは人のうわさだが江戸は広いや。えらいやつがいやあがる」
めったに人をほめない磯五が、しきりと感心するのを聞きながら、お高は、それはきっとあの若松屋惣七さまであろう。若松屋様にきまっていると思った。それほど小判にかけての腕ききが、若松屋さまのほかにいようとは思えないからだ。お高は、自分がほめられているようでうれしかった。
五
ふたりは奥の居間のほうへ近づいていた。そこにはうわさのおせい様が待っているので、磯五は、そこから上がらずに、そっとお高を招いて、前の中庭を突っ切って行った。
つき当たりにお稲荷《いなり》さんがまつってあった。そこらは、あまり手入れのしてない薮《やぶ》になっていて、ひからびたお供物《くもつ》などののった皿《さら》が、土といっしょにころがっていた。お高は、もったいないと思って、そっと拾い上げてお稲荷さんの前へ持って行って置いた。
ふたりは、がさごそ音がするのに気を兼ねながら、その薮を分けて、お稲荷さんの裏へ出た。そこも磯屋の庭つづきではあったが、すぐ勝手や風呂場《ふろば》に近
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