巷説享保図絵
林不忘
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《テキスト中に現れる記号について》
《》:ルビ
(例)金剛寺坂《こんごうじざか》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)女|祐筆《ゆうひつ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「風にょう+昜」、第3水準1−94−7]
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金剛寺坂《こんごうじざか》
一
「お高《たか》どの、茶が一服所望じゃ」
快活な声である。てきぱきした口調だ。が、若松屋惣七《わかまつやそうしち》は、すこし眼が見えない。人の顔ぐらいはわかるが、こまかいものとくると、まるで盲目《めくら》なのだ。その、見えない眼をみはって、彼はこう次の間のほうへ、歯切れのいい言葉と、懐剣のようにほそ長い、鋭い顔とを振り向けた。
冬には珍しい日である。梅がほころびそうな陽気だ。
この、小石川《こいしかわ》金剛寺坂《こんごうじざか》のあたりは、上水にそって樹《き》が多い。枝の影が交錯して、畳いっぱいにはっている。ゆれ動いている。戸外は風があるのだ。風は
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