らしい女だと思うと、お高は、自分がひとのことを隙見しているのに気がついて、はっと気がとがめた。いやしいことだと思って、顔が赧くなった。が、いま動けば磯五に見つかると思って、足が釘《くぎ》づけになったようで動けなかった。かえって、どうにかして女の顔を見てやろうと思って、いろいろに角度を計って首をうごかしていた。
 女は、一生懸命に磯五のいうことを聞いているふうだった。するとうつむいてはきものの爪先《つまさき》で小石をもてあそびながら女が向きを変えた。顔が、お高に見えてきた。お高は、その女があまりに美しいので、急に何か光るものを見たように、眼さきがきらきらとした。それほど色の白い、ほっそりした美人であった。
 しかし、眼鼻だちがくっきりあざやかで、大きな眼が、何かしきりにうなずきながら、ほれぼれと磯五をみつめていた。顎《あご》を襟へうずめて、上眼づかいに男を見あげているのだ。そのようすは、女のお高にも悩ましくうつって、いっぽうには、これはいよいよただ者ではないと思わせた。そして、この女も磯五に想いを寄せていて、磯五のためには何でもしようとしているのであることが、磯五を見る女の眼つきから、お
前へ 次へ
全552ページ中77ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング