て、材木などが置いてある。
その囲いのなかの、磯屋の店からはちょうど仮塀のかげになって見えないところに、ちょっと人が動くのが見えた。お高のところからは、横からすかして見るようなぐあいになるので、板がこいの隙間《すきま》から見えたのである。お高は、人のいない空地に何かのうごきが眼にはいったので、そのまま磯屋の天水桶のかげにたちどまってそっちのほうを見た。
磯五が、誰か若い女と話しこんでいた。向こうからは磯屋の陽影になっていて見えないのだが、こっちからは、板と板の合わさっている角度によって、よく見えるのだ。磯五と女は、見ている者がないと安心して、抱き合わんばかりにからだを寄せて、何か熱心に話し合っては、声を殺して笑っているのである。
女は、芸者にしてはけばけばしい姿《なり》をしているが、どこか素人《しろうと》らしくないところの見えるのは、女|歌舞伎《かぶき》の太夫《たゆう》ででもあろうかとお高は思った。黒い豊かな髪をきれいに取り上げた、すんなりと背の高い女だ。笑うたびに肩から腰を大ぎょうに波うたせて、色好みの男の玩弄《おもちゃ》にまかせてきたらしい、しなやかな胴である。
いやみった
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