かったなりをした、四十あまりの大年増《おおどしま》だ。
 それが、お高の前に丁寧に指をついて、こう挨拶をはじめた。
「いらっしゃいまし。旦那のお妹さんでいらっしゃいますか。おうわさはしじゅう伺っております。わたくしは、磯屋の家内でございます――」


    妹


      一

 おせい様が、わたしは磯屋の家内でございますと挨拶すると、客の若い女はひどくおどろいたようすなので、おせい様はあわてていい直した。
「いえ、まだ、家内――ではございませんが、近いうちにこちらへ参ることになっております。五兵衛さまといっしょになるはずになっておりますのでございます」
 女房だといい切ったのを、いい過ぎたと思ったらしく、おせい様は赧《あか》い顔をして自分のことばに笑いながら「こちら様は五兵衛さまのお妹さんでございましょう?」
 お高は、びっくりした。三年前に自分をすてた良人だ。それが突然、江戸有数の太物商磯五の旦那として現われたのみか、たった今自分に、すべてを忘れてもとの鞘《さや》にかえってくれ、そうして内儀として、当家《ここ》の帳場へすわってくれと、あんなに面《おもて》に実を見せていい寄った
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