っていたというようにおだやかに笑った。
「いや、話せば長いことだが、いい手づるがあってなわたしに、衣裳の流行《はやり》に眼があるというんで、友だちやなんか、いろいろ骨を折ってくれる人があってな、金を工面《くめん》して、この磯五をそっくり買いとってくれたのだよ。まあ、金主がついて買ったようなものだが、わたしの店は私の店なのだ。だから、力の入れがいも、あろうというものだ」
 お高は、つと磯五を見た。
「もう何も知りたいとは思いませんが、きくことだけは聞きますよ」
「何だな、あらたまって」
「わたしがこの磯五の店から買い物していたことは、お前さまよく知っていなすったろうに」
「うん。いろいろ買っておったことは知っていたが、借りがあるとは知らなかった。お前の金で、払ったのだろうと思っていた」
「その私のお金を、あなたが持って行ってしまったのではありませんか。どうして払えるものですか」
「まあ、そんなこというな。あの金は、いまでも返すよ」
「いりませんよ、あんなお金――」
「そうけんけん[#「けんけん」に傍点]いうな。それより、おれはこの店全体をお前と二人でやって行こうといっているのだ」
「何の
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