」に傍点]でお前にもしじゅう心配をかけたが、どうやらおれも、これで身が固まったようだよ。おかげで、今ではこのとおり、江戸でも名の売れている大商人だ。
 なあ、お前にだって、これからはつらい思いをさせやしない。何も、あの小石川の奥へ帰って、あんなめくらなんぞのきげんをとることはありはしないのだ。どうだ、おれといっしょに、ひとつ、この大屋台をしょって立とうって気はないか」
 ほん心かでたらめか、それとも、久しぶりに見るお高に、あたらしく心をひかれかけているとでもいうのか、磯五は、ふとこんなことをいいだした。そしてまんざら出|放題《ほうだい》でもないらしく、こうつけたした。
「やりようによっちゃあ、この店は、ものになると思うんだ。そこで、お前は字がいいし、それに、数理にあかるいから、帳場にすわって、おかみさんとしてにらみをきかしてもらいてえと思うんだが、相談だ。どうだい」
 お高は、そっけなく、わきを向いた。
「いやでございますよ。お前さんというお人にはこりごりしていますからね、またどこに、どんなわるだくみがあるか、知れたものじゃあありません。お断わりしますよ」
 磯五は、そういうだろうと思
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