通りを行って、式部小路へまがった。町家ならびだ。天水桶《てんすいおけ》と金看板の行列に、陽が、かんかん照っている。磯五は、手をあげて、むこうの一軒をゆびさした。
「あれだ」
 紺の暖簾に、いそや[#「いそや」に傍点]と出ている。間口のひろい、立派な店である。客も、出はいりしている。駕籠がとまると、小僧や手代が、うす暗い土間の奥から、旦那おかえりと声をそろえた。
 お高は、磯五に案内されて、横手の通用口からはいって行って、すぐに、奥まった一間に通された。あるじの居間らしい部屋だ。きちんと片づいて、贅沢《ぜいたく》な調度が置かれてある。
 せせこましい中庭をへだてて、店のさわぎが、手に取るように聞こえていた。客に接している番頭が、長い節をつけて品物の名を呼ぶと、小僧が、間延びした声でそれに答えながら、蔵から反物《たんもの》をかつぎ出すのである。おとくいには茶を出すらしく、茶番よう! と呼ぶ声も、のどかに聞こえて来ていた。
 すわるとすぐ、お高の顔をのぞきこむようにして、磯五がいった。
「なあ、よく、話し合って理解をつけようじゃないか。まあ、よろこんでくれ。知ってのとおりのやくざ[#「やくざ
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