仲間と果たしあいをした。相手も、相当できる男だった。仲裁がはいって、人死には出なかったが、そのとき惣七は、両眼のあいだに怪我《けが》をしたのだ。不覚なようだが、もののはずみだったと自分では思っている。それから、眼が悪くなって、おまけに、その女も、相手の男にとられてしまった。
そこで、というわけでもない。もとから、侍《さむらい》がいやになっていたやさきだったので、惣七は、ひらりと稼業《しょうばい》がえをした。さむらいをよして、町人になった。若松屋惣七となった。剣悟の呼吸《いき》で、金をあつかいだした。恋を失った自暴《やけ》もあった。が、はじめは、その苦しみを忘れるために、小判の鬼と化してやれなどという、そんなはっきりした気もちではなかったのだ。ただ、どうせ泰平の世である。武士では、出世のしようがない。剣では身が立たない。と思って、すっぱり鞍《くら》替えをしただけのことなのだ。
しかし、何でも、やり出してみると、面白い。夢中にさえなれば、武道も商道もおなじこつ[#「こつ」に傍点]なのだ。いつのまにかここまできた。きょうの若松屋惣七は、むかし星影一刀流に落葉返しの構えを作り出したように、
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