が、世の中にはすくなくないものだが、お高の場合は、そうでなかった。反対だった。
さびしい、しかし、生きいきした光を持ち出してきた眼を壁にすえて、室外《そと》に進む夏のけはいを感じてじっと味わいながら、お高は、口をきくのもおっくうで、一日中ただすわっていることが多かった。肩で呼吸《いき》をして、苦しそうに、額が汗ばんでいることが多かった。
「もうじき身ふたつにおなりになるのさ」
膳を運んでくる国平が、供部屋へ帰って、佐吉と滝蔵にささやいたりした。
若松屋惣七と龍造寺主計が帰って来ると、お高は、長いことためらっていて、その、惣七の帳場になっている奥の茶室へはいって行かなかった。龍造寺主計が、あの初めて来たときのように、庭を隔てた別棟《べつむね》に落ちつくと、お高は、思い切って若松屋惣七の部屋へ出かけて行った。
若松屋惣七は、着がえをすまして、よく見えない眼を庭へ向けているところだった。それは、お高がよく見慣れた座像であった。お高は、泪《なみだ》が流れるのにまかせてそのまま若松屋惣七のまえへ行ってべったりすわった。
若松屋惣七は、風のようなお高のにおいを感じて、その来る方向へからだ
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