を転じてすわり直した。お高を受けとめようとするように両手をひろげたが、お高は、すこし離れたところにくずれてしまって、その手の中へはころげ込まなかった。
「いま滝蔵から聞いた。ここに帰って来ておったのだそうだな」若松屋惣七は、茶碗《ちゃわん》の糸尻《いとじり》をすり合わせるような、いつになく上ずった声だ。「知らなかったぞ。何しに帰って来たのだ」
「旦那様は、わたくしになど、もうお会いくださるお気もないのでございましょうけれど――」

      三

「そうでもない。会いたくないくらいなら、何もこういそいで掛川からもどって来ることはないのだ」
「では、おあいくだすっても、どういうことになさろうというお気は、ないのでございましょう。そうなのでございましょう」
「どういうことにするとは、どういうことだ。愚かな、わけのわからんことをいうものではない」
「具足屋のほうはいかがでございますか」
「芽を吹いたどころか、みごとな花が咲いて、やがて、たいした実がなろうぞ」
「龍造寺主計さまが、ごいっしょにお帰りになったようでございますねえ」
「うむ。用もないが、ま、久方ぶりに江戸見物というところである。
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