産がきてから、若松屋惣七が急によそよそしくしだして、とてもいっしょになる気もちなどはないらしく見えたからだった。財産のあるお高と夫婦になって、財産があるから夫婦になったのだと思われたくないという、若松屋惣七らしい意地だった。磯五という邪魔《じゃま》がなくなったいま、お高と若松屋惣七のあいだを邪魔するものはこうしてお高の財産であった。
お高は、誰の顔も見ないように、ほとんど一部屋に閉じこもって日を過ごした。心もちの苦しみが、からだの苦しみにまでなってきていた。その刺すような苦しみが、お高をはっきりと自意識にもどして、彼女は生き返ったような気がすることがあった。じぶんは今まで死んでいたのだと思うことがあった。
じっさい、お高は、この最近の磯五との交渉や、母のおゆうの遺産受け継ぎの問題などで、多くのいざこざを[#「いざこざを」は底本では「いざくざを」]重荷のように負わされていたのから解放されて、もとのさわやかなお高にさめつつあった。よみがえりつつあった。
恋だの愛だのという心臓はふさがって、いのちは糸のようにほそっても、大きな財産さえあれば、幸福である。それが何よりの慰めになるという人
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