であるとにっこりした。
 龍造寺主計の義侠《ぎきょう》で、もとの経営者|東兵衛《とうべえ》の妻女が女中頭に使われていて、挨拶《あいさつ》に出た。東兵衛は、まだ気がふれたままで裏山に掘立て小屋を作って入れてあるとのことだったが、若松屋惣七は、妻女の気もちも察して、見舞う気になれなかった。
 経営の打ち合わせや、帳簿の引きあわせなど、そのために来た用事が、何日もつづいて尽きなかった。二人は、毎日帳場にすわって、話しこんだり、出入りの客に挨拶したりしていた。田舎《いなか》びた鷹揚《おうよう》な、鈍重なその日その日だった。激しい江戸の生活で疲労していた若松屋惣七の神経は、恐ろしいスピイドで恢復《かいふく》しつつあった。
 よく雨が降った。雨雲を仰ぎながら、旅人の一団が前の街道を走り去ると、それを追って、白い驟雨《しゅうう》が刷《は》いて過ぎた。埃《ほこり》をしずめて、街《まち》は銀に光った。かっとまた太陽が照りつけて、けむりのような陽炎《かげろう》がゆらいだ。松のあいだをゆく笠が、それ自体ひとつの生物のように、軽快にうごいて見えた。大名の行列もいくつとなく通った。具足屋に泊まったのも、すくなく
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