ていた。


    雲の峰


      一

 掛川は、人口もかなりあり、いかにも太田摂津守五万三十七石の城下らしい、どっしりと古びた町だ。具足屋は、龍造寺主計が来てから、すっかり面目を一新して、これだけの町の脇本陣の名にそむかない、立派な間口と、絶えない客足を誇っていた。駕籠がとまって若松屋惣七がおりるのを見ると、艶《つや》やかにふきこんだ広い上がり框《かまち》から、龍造寺主計がころがり出て来て、惣七を迎えた。
 が、駕籠が一つきりなのを見て、龍造寺主計は、ちょっと失望のいろをうかべて、
「お主だけか――」
 と、いった。このことばの影には、お高はいっしょに来なかったのかという意味があったのだが、若松屋惣七は気がつかなかった。まして龍造寺主計の失望の色には、少しも気がつかなかった。
「うむ。しばらくでありましたな」
 きげんよく笑って、立った。龍造寺主計もすぐ気がついて、瞬間のうちにその失望から立ち直って、いつもの快活な彼に返っていた。いま、お主だけか、と驚いたように聞いたことに引っかけて、
「お主だけか、ひとりではたいていではなかったであろう。眼は、もうよいのか」
「眼か。よ
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