ものか。それは、わかっておる」
「はあ?」
「放火したものは、死んでおるぞ」
「は」
「法により、その放火した者の家蔵《いえくら》、家財、あきない品、一切没収じゃ」
「――」
享保《きょうほう》七年のことで、忠相は、四十六歳になる。四十六歳の忠相は山田奉行として、また普請奉行の一年間、それから江戸南町奉行に任官してこの五年のあいだに、あまりに多くを見、多くを聞いてきている。四十六歳の忠相は、もう一度、あくびをした。あくびの余韻《よいん》を口の中でころがしているうちに、それが、謡曲とも詩吟ともつかないうなり声になって、忠相は、いつまでもそれをつづけているのだ。
木場の甚は、平伏していた。伊吹大作は、すこしずつ何かがわかりかけてきたように、眼をきらめかせて、横を向いているのだ。
二
政朝に鍾馗《しょうき》を設けて、寃枉《えんおう》の訴えをきくという故事は、王代の昔だ。このデモクラテックな制度が復活して、目安箱という、将軍吉宗の命に出るものだが、忠相の建策だ。この前年、享保六年八月一日から、評定所《ひょうじょうしょ》に目安箱を置くことになった。申告受付け箱だ。これを民間
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