めから、とんでもない間違いだったのでございます。
じつを申せば、わたくしこそ、あちらへ旅だちますときに、これの金子《きんす》を少々借用いたしまして、それがそのまま借りになっておりますくらいで。わたくしから女房のほうに貸しなどと、ぶるる! めっそうもござりませぬ。わたくしこそ、借りたものを返さねばならぬと、あちこち心当たりをさがしておりましたが、それでも、まあ、こうしてこちら様で会って、大きに安心いたしました。
いえ、全くのはなし、あの商売をのれん[#「のれん」に傍点]でと、雇い人ごと買い取りましたときに兼吉《かねきち》という一番番頭が申しますには、これこれこれこれのお顧客《とくい》さまへ貸しになっている。どうしたものでございましょうといいますから、商売を新しくするためにも、このさい何とかして取り立てねばならぬ。いいように計らってくれ、こう申しつけましただけで、そのときじつは、その貸方のあて名先を、手前は見なかったのでございます。
なお、なかでも難物だけ一まとめにして、さっそく若松屋さんへ取り立てを、お願いすると申しておりましたが、あとになって、その、こちら様へ御厄介をお頼みした分
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