ことのあるのを知っているので、そのときはそれきり黙りこんでしまった。
祭の迫った十日に、日本一太郎とお駒ちゃんは、その木更津屋の宿を引き払って、王子権現の境内に木場の甚の手で建てられていた小屋掛けのほうへ移って行った。楽屋にごたごたころがっている手品の道具のかげに、筵《むしろ》のはためく音を聞きながら寝泊まりすることになった。暑いころで、雨も降りそうでないので、この野天同様の住まいはお駒ちゃんにも日本一太郎にも楽しかった。
両国で日本一太郎と同じ小屋にいた吉《よし》という若い者や、香具師の手から手としじゅう渡り歩いている連中二、三人、木戸番やら道具方やらが来ていて、それらは客席に煎餅蒲団《せんべいぶとん》をならべて、そのうえに車座になって一晩じゅう博奕《ばくち》を打っていた。手品の前座の芸人も駆り集められてきた。境内には、向かい合って、また背中あわせて、いろんな見世物の小屋がすくすくと立って、祭の支度で、王子一帯がざわざわしていた。
三
あすふたをあけるという前の晩に、日本一太郎は妙に考えこんで、楽屋の太い丸太の柱にもたれかかって、ぼんやりお駒ちゃんを見上げていた
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