せい》したりした。
「どうしてなかなか結構もんだ。糸《いと》にも乗れば、ちゃんと舞台《いた》についている。おめえが、踊りの下地がねえといったのは、ありゃあ嘘だろう」
「できることを、できないといって隠すいわれもないじゃあないか。あたしゃ、みんなと同じで、一つできることなら二つも三つもできるといいたい性分なんだよ。ほんとに、踊りのお[#「お」に傍点]の字も知らなかったんだけれど、今じゃあ自分でも驚いているのさ。何だかこう雲にでも乗っているようで、ひとりでに手足が伸び縮みして動くんだよ」
「ひとりでにそれだけ踊れりゃあ、世話はねえ。大したもんだ。木場の甚さんにも話して、一小屋引き請けることになっているのだから、この分だと、いよいよ祭がきて覆《ふた》をあけるのがたのしみだ。もう地割りも済んだことと思うが――木場の身内が、幟《のぼり》や幕で景気をつけてくださることになっているのだ。まあ、日本一太郎も、一度は江戸で、花を咲かせてみることになったよ」
「お前のほうはそれでいいだろうけれど、あたしは、この自分の手踊りが心配でならないんだよ。せっかくの大きな演《だ》しものに味噌《みそ》をつけやしないか
前へ
次へ
全552ページ中493ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング