かべて、手代のひとりが、ちょっとあたまをのぞかせた。
「日本一の師匠がおみえになりましたが」
「ああそうかい。会いましょう。居間のほうへ通しておきな」
磯五は、それを機《しお》に、女ふたりを残してにらみ合わせておいて、あたふたと室を出て行った。
出がけに、ふり返っていった。
「おしんも、何も悪くうたぐることはねえのだ。お美代は、まだ子供じゃあねえか」
「子供か子供でないか、よくご存じですねえ」
おしんはそういって、磯五を見上げたが、お美代は、眼をすえておしんを見守っているだけで、沈黙をつづけた。おしんも、そのお美代へすぐ眼を返して、また二人の女のにらみ合いになった。磯五は、そのえくぼの深い頬に皮肉のいろをうごかして、背中を向けて縁を立ち去って行った。
四
日本一太郎のいささか頭の調子の狂った幻想から生まれた手妻応用の振り事は、彼の人物そのままに、突拍子もないものだった。外題は、どっちにしようかと考えていたのが、新作|天羽衣《あまのはごろも》というのをよして、天人娘《てんにんむすめ》夢浮橋《ゆめのうきはし》ときまった。
日本一太郎は、毎日毎晩、藤代町の木更津屋の
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