、そこの障子がするすると開いた。
「大変なさわぎですねえ。地震かと思いましたよ」
 それは、お針頭のおしんであった。おしんも磯五に負けて、よほど以前から、磯五のいうとおりになっているのであった。障子をあけたおしんは、草のように蒼い顔であった。眼が、うわずって、光っていた。おしんは、ばたばたとはいってくると、沈むようにお美代のまえにすわった。お美代は、とぶように磯五の膝からおりて、べったり畳に腰をつけていた。
 突っかかるように、おしんがいっていた。
「この娘《こ》は――、この娘はずうずうしいにもほどがあるよ。前から知ってはいたけれど、真っ昼間から何だろう。こんなところで、旦那様に抱きついたりなんぞ、いやらしい」
 お美代は、だまって、おしんの顔をみつめていた。おしんも、口をあけたてするだけで、無言で、相手をにらみつけた。
 こまかい着物を着た年増と、派手な衣裳の娘と、それは、年とった牝猫《めねこ》と若い牝猫との喧嘩の場面を磯五に聯想《れんそう》させて、真ん中にすわっている磯五が、困りながら、内心面白くてくすくす笑って、けしかけるようなこころもちで見物しているとき、もう一度障子が人影を浮
前へ 次へ
全552ページ中490ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング