はしなかった。
「だって、旦那様が、あぶないことをなさるんですもの」
「なに、誰もあぶねえことなどしやしねえ」
「だって、落ちそうになるのですもの」
「落ちても、ころがっても、誰も見ていねえからいいのだよ」
「いけませんよ。あれ、いけませんよ。落っこちそうになりますよ。誰も見ていないといって、そこに旦那様がいらっしゃるじゃありませんか」
「おれは、いてもさしつかえねえのだ」
「いけませんよ」
「なぜいけねえのだ」
「なぜでもいけませんよ」
「なぜでもなぜいけねえのだ」
 お美代は、そっとたち上がって、こんどは、磯五のほうを向いて、馬に乗るように磯五の膝にまたがって、いたずらそうに眼を笑わせた。
「さあ。ゆさぶってくださいよ。今度は大丈夫。落ちませんから」
「大丈夫落ちねえか」
「落ちませんよ」
 磯五が、力を入れて膝をうごかすと、お美代は、きゃっきゃっと笑いこけながら、うしろへ倒れそうになって、それから、磯五の帯に手をかけてしっかりつかまり出した。
 狭い部屋でふざけていて、笑い声と物音とが大きかったので、縁を近づいてくる跫音《あしおと》を消していた。
 あし音は、部屋のまえでとまって
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