三

 袂で顔と泣き声をおおったお高だ。ふらふらとたって、その、惣七の帳場になっている奥の茶室を出て行こうとした。
 若松屋惣七の眼が、じろりと光って、お高を追った。
「どうするつもりなのだ」
 お高は、手をかけた襖に顔を押し当てて、肩をふるわせてむせび泣いていた。
 草をたたく雨の音がしていた。灰いろの重い雲が、庭の立ち樹のすぐ上にあるのだ。近くの枝から枝へ、濡れた鳥の声がするのだ。しいんと遠のいた江戸の巷音《こうおん》だ。はねつるべの音がしていた。その、番傘《ばんがさ》をさして水をくんでいる国平の番傘が、青桐《あおぎり》の幹のあいだに、半分だけ見えていた。
「拝領町屋のおせい様の家へ行って、当分おせい様といっしょにくらす考えでございます。おせい様はお可哀そうでございますよ。おせい様は、ああして歌子さまと旅には出たものの、あきらめ切れないで帰っておいでなすったのでございます」
「あきらめ切れずにと申して、磯五のことか」
「はい。おせい様はまた、あの五兵衛さんのことを想《おも》っていらっしゃるのでございますよ」
「女というものは不思議なものだな。また、かの磯五のごとき男
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