寺殿は、あまりに行く行くというて行かぬので怒っておらるるかもしれぬぞ。とにかく、具足屋は立派に芽を吹きました。何から何まで、龍造寺殿のおかげじゃ。繁昌《はんじょう》ぶりを見て、とっくりとお礼を申し上げたいと思う。あすたちます」
お高は、やっといった。
「ごきげんようおいでなされませ」
「ふん。それだけの挨拶か」
「お達者で――」
「ははは、お前も、達者でくらすがよい。いや一年も二年も帰らぬようないいぐさだな。ナニすぐもどって参る」
「ほんとに一年も二年も、お眼にかかりませんつもりでございます。おかえりになりましても高とのことはもうこれきりでございます」
若松屋惣七は、見えない眼をぐっと見ひらいて、お高の顔を探した。
「なぜそんなことをいうのだ」
「なぜでも、もうお眼にかかりませんでございます」
「まだあの磯五のことが気になっているのだな、縁切り状を書いたとか、書かせたとか、磯五からもお前からも聞いたようにおぼえているが、あれは、つくりごとであったのだろう。うう、なに夫婦のあいだのことだ。何を申し合わせて他人をいつわろうと、それはそっちのこと。だまされた他人のおれが、愚かであったよ」
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