したや》の拝領町屋の雑賀屋へ舞いもどって、いきおいこんで府中の手前まで用もない旅をしたのはどこの人だというような、けろりと莫迦ばかしい顔をして暮らしていた。
 が、そのうちに若松屋惣七は、いよいよ掛川で具足屋をやっている龍造寺主計をたずねて、一人で旅に出ることになった。
「あすたとうと思う」
 小雨の縁だ。若松屋惣七は、その、うっすらと小雨の吹きこむ縁側にあぐらをかいて足の爪を切りながら、うしろの敷居にしゃがんで障子にもたれていたお高を、ちょっとふり返った。お高は蜘蛛《くも》の巣のような、細い白く光る雨あしをぼんやり見ていた眼を、あわてて伏せた。
 お高は、若松屋惣七の屋敷を出て、どこかへ行ってしまうといって雑司ヶ谷の雑賀屋の寮から帰って来たくせに、まだこの金剛寺坂にずるずるべったりに厄介になっているのだ。しかし、もう若松屋の女番頭として、金勘定や帳簿を見ているわけではなく、いわば客分として、若松屋惣七のいうままに、逗留《とうりゅう》しているかたちだった。
 お高がこたえないので、若松屋惣七がつづけた。
「一日延ばしに延ばして参ったが、もう延ばせぬ。こんどこそは、行かずばなるまい。龍造
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