かったのだ。
 若松屋惣七と歌子と、岩槻から来た麦田一八郎の紙魚亭主人と、おせい様は、お客さまが好きであった。ことに、こうしてすこしでも江戸を離れていると、江戸の人をなつかしがっていつまでも引きとめておこうとした。が、そこへ、水の上へ油が一滴落ちたように、決してまじらない存在として、自分勝手に磯五が割り込んできて、がんばっているのには、悩まされた。
 が、もともと相識《しりあい》はしりあいなのだし、知りあいどころか、ついこのあいだまで大事な情夫《おとこ》であったのだから、そうむげ[#「むげ」に傍点]に追い立てるということも、おせい様にはできなかった。煮え湯のような気持ちでいながら、人前では、さりげない応対だけはしていた。磯五は、それをいいことにして、のんべんだらりと滞在していた。みな磯五に白い眼を向けて、何かしら激しい空気が、日増しに凝結していくようにみえた。
 若松屋惣七と紙魚亭主人の一八郎とは、磯五の姿を見かけるたびに、よく眼をかわしてうなずき合っていた。若松屋惣七は、ぼんやりした網膜に磯五を追いながら、苦にがしげに口を曲げた。
「きやつはいずれ殺《ころ》されることになるであろう。
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