磯五自身のためにも、みなのためにも、彼男《あれ》は一日も早く殺したがよい」
 そんなことをいって笑った。聞こえないから、磯五は、平気の平左だったが、聞こえても、おそらく平気だったろう。

      三

 そのうちすこしずつお高にわかってきたことは、磯五が、あのいまお高にこようとしている莫大な財産をかぎつけて、それでこう急に、しつこくそばを離れまいとしだしたのではないかという懸念であった。
 どうして知るようになったのか、それが腑に落ちなかったが、もしあの財産のにおいをかいだものとすれば、お高を放すのが惜しくなって、ああして一度書いた縁切り状を奪い返したことも読めるのだ。内実はどうでも、表向き夫婦ということになっていれば、お高のものは磯五の自由になるに相違ないのだ。磯五のことだから、すくなくともそれまで、どんなことがあってもお高の身辺から身をひくまいとするにきまっているのだ。
 お高は、何ゆえ早くここへ気がつかなかったろうと迂濶《うかつ》に思えて、同時に、あさましい気もちがこみ[#「こみ」に傍点]上げてきた。そんな金なぞいらないと思った。考えてみると、はじめからほしくも何ともなかった
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