。
お高は大声をあげようとしたが、口をふさがれているので、意味のわからないうめきになってしまった。磯五はすぐ、縁切り状を握った手を懐中《ふところ》へ入れて、何事もなかったようにゆきかけようとした。お高はぼんやりして、どうしていいかわからなかった。離縁状などというものを奪ったり奪われたりしているのが夫婦喧嘩のようで人を呼び立てるのはいやであった。
ただ磯五の卑怯《ひきょう》な仕草はいうまでもないが、何ゆえこんな泥棒のようなことをして引ったくらなければならないのだろうか。
一度は縁切り証文を書いたものの、あとになってみると、自分と別れるのがそんなにつらいのだろうか。あんなに、わりにあっさり書いてくれたものを、今になってどうしたというのだろう。そんなに自分を思っているというのかしら。
お高が馬鹿々々しい感じが先に立って争う気もちにもなれないでいると、磯五はお高のほうへ、礼でもいうようにちょっと笑顔をみせて、ゆったりした歩調で廊下を歩き去った。
お高は、若松屋惣七に、このいきさつを話さなかった。引ったくったほうも、ひったくられたほうも、どっちもどっちのような気がして話す心もちになれな
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