松屋惣七がいった。
「どうも高はおれをおそれておるようだが、何もおそれることはないぞ。おれにしろ、お前にしろ、他人の迷惑にならぬ限り、おのが思うとおり暮らしてゆけばよいのだ」
お高は、自分でもわけのわからない涙が出てきていた。お高は、縁のあけ放してある座敷のほうへ近づいていたので、いそいでなみだをふいた。そのお高の眼に、袖垣《そでがき》を越して映ったものは、門からはいってくる磯五の姿であった。
おせい様とああいうことになり、自分ともこうなっている磯五が、どうしてのめのめ[#「のめのめ」に傍点]とこの雑司ヶ谷へ来ているのだろう? お高は、それが不思議なようで不思議でない気がした。それよりも、すぐおせい様のことが気づかわれた。磯五に対する若松屋惣七の憎悪も、この場合、心配であった。
「五兵衛さんが来ているようですけれど、どうぞ手荒なことはなさらないでくださいまし。おせい様を苦しめるようなものでございますから」
お高がささやくと、若松屋惣七の小鼻に皺が寄った。
「心配いたすな。どうしようともせぬ。が、おせい様は気の毒じゃな。悪いやつとはわかっても、まださっぱりあきらめきれずにおるのだろ
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