、おいらの女房を横どりする気なのだろう。お高をそそのかして、おせい様の証文を持って来させて、それと引き換えに縁切り状を取らせたのは、みんな若松屋の細工だろう。お高は、いつかおれがおめえにしたように、おれにその証文を破かせて、かわりに、おいらのこの面へ手を当てたのだ」
「それは、それは、近ごろ大できでござった」
 若松屋惣七が、しんから愉快そうに笑い出すと、磯五は、野犬がほえるようにわめいて、いきなり、若松屋惣七へ斬《き》りつけていった。が、若松屋惣七は、今でこそ金勘定の町人だが、武家出で、しかも若いころは剣道の達人であった。星影一刀流に落葉《おちば》返しの構えという一手を加えた名誉でさえあった。
 磯五は、それを知らないから切りかかっていったのだが、若松屋惣七は、驚かないのだ。半ば盲目《めくら》だけれど、剣気だけは不思議とはっきり感じ、白刃のしごきは、心眼が見えるのである。一度眼で見たものを脳へ伝えるのではなく若松屋惣七のは、直接あたまで知るのだから、若松屋惣七のほうが、普通人より秒刻早いのだ。
 磯五が、女のように白い腕をふって斬りこんで行ったとき、若松屋惣七は履物《はきもの》を脱ぎ
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