で立った。


    日向《ひなた》の庭


      一

 加宮跡の雑草を踏んで、磯五は、若松屋惣七の眼前へ押しかかって行った。右手をふところへ入れているのは、中で、匕首《あいくち》を包んである手ぬぐいをほどいているのだ。若松屋惣七が、よく見えない眼をまばたいて、それが磯屋五兵衛であることに気がつくまでには、ちょっと間があった。
「何しに来たのだ」若松屋惣七は、歯のあいだからうめいた。
「お高は、おらんぞ」
「お高に用があって来たんじゃあねえ。おめえに用があって来たのだ」
 磯五は、そういって、懐中で短刀の柄を握りしめた。九寸五分の柄は、鮫《さめ》の皮に金の留釘《とめくぎ》を打った、由緒《ゆいしょ》ある古物であった。鮫皮の膚ざわりが、冷たくこころよかった。それは、お高の持ちものであったのを、いつからともなく磯五がもっているのだった。麻布十番の馬場やしきの家《うち》へ、お高を置きざりにして京阪《かみがた》へ行くときに持って出たものらしいが、磯五にしても、はっきりしないのだった。
「ふうむ、わしに用というのは」のんびりした声で、若松屋惣七がいっていた。「どういう用かな」
「おめえは
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