それをそっくりまとめてお高が持って来ているのだから、磯五は、これは何のことであろうと顔色が変わった。
「お前さまの証文をみんな持って来ましたよ。おせい様がわたくしにすっかりお任《まか》せなすったのですよ」
「それでわざわざ持って来てくれたのか。すまなかったな。なに、それには及ばねえのだよ。そんなもの、おせい様の気を悪くしてまで、おれから頼んで入れておいた証文なのだから、反古《ほご》同然なのだ。口をきく証文ではねえのだから――」
「おや、そうですかねえ。でも、見たところ立派な証文でございますよねえ」
「よこせ。破いてしまうのだ」
「いけませんよ」お高は、ちょっと磯五から離れて、証文の束を両手で握りしめた。「おせい様が相手ではありませんよ。わたしが相手なのですよ」
「それはお高、いってえ何のことだ」
「おせい様に代わって、わたしが、あなたにこの証文の片をつけてもらうのですよ。どこへ出しても、誰に見せても、このとおりちゃん[#「ちゃん」に傍点]とした証文でございますからねえ。はっきりした話ではございませんか。これだけおせい様からお前さまへまわしてあるお金を、わたしに返していただきたいのですよ
前へ 次へ
全552ページ中412ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング