いた。しかしそれは、何だか色悪《いろあく》に引っかかったのがうれしくて泣いているような気がした。泣きながら、磯五とお高がまたいっしょになるだろうかとおもうと、嫉妬が芽ばんでくるのを押え得なかった。
 秋のつぎには、冬がくるのだ。そして、それでおしまいなのだ。おせい様の冬には、春が待っていないのだ。おせい様は、また肩をふるわせて泣いた。泣くために泣くような泣き方であった。自分でもそう思って、いっそう激しく泣いた。

      二

 あくる朝早く、磯五は江戸へ帰った。駕籠が動き出しても、おせい様もお高も顔を見せなかった。磯五はかえって気楽な気もちだった。気楽な気もちは、ほかにも二つあった。一つは、おせい様が、磯屋の商売へ融通した金子《きんす》を忘れてやるといったことであった。これがいちばんうれしかった。もう一つは、おせい様のほうがこうなってしまえば、もう贋《にせ》の妹などはいらないのだから、お駒ちゃんをお払い箱にしていいことであった。
 磯五は、軽い心もちではあったが、しゃくにはさわっていた。おせい様をたぶらかしつづけて、もっと金を吐き出させることができたのに、途中から邪魔《じゃま》が
前へ 次へ
全552ページ中405ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング