していた。惣七が、佐吉に命じた。
「座敷へお上げ申せ、あっちで会おう。主人は、すぐ参りますと、丁寧に申すのだ。失礼のないようにな」それから、お高へ、「着替えを、これへ」
まもなく、茶結城《ちゃゆうき》の重ねにあらためた若松屋惣七だ。茶室を出がけに、お高にいった。
「挨拶《あいさつ》が済んだころを見はからって、茶菓を持って参れ。よいか。何もおどおど[#「おどおど」に傍点]することはないのだ。ちょうどよいところに、磯五が来たものだな。新しい主人であろう。わたしも、はじめて会うのだ。が、安心しておれ。ことによると、二百五十両に棒を引かせてみせるから」
そのまま、手さぐりで、座敷へ出て行った。お高は、いいつけられたとおり、茶菓のしたくをいそいだ。もうよかろうと、盆をささげて、その座敷のそとまで行った。
室内《なか》からは、別人《べつじん》のように町人町人した、若松屋惣七の声がしている。
「へっ、これはどうも、お初にお眼にかかりますでございます。手前が、若松屋でございます。はいはい、あなた様が、このたび磯屋をそっくりお買い取りなすったお方で、ああ、さようでございますか。こん日はまた、遠路を
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