くらんだ仕事に相違あるまい」
「どうも、そうらしいのでございます。でも、わたくしは、お金のことは、もう何とも思っておりませんでございます。あの人も、心から悪い人ではなし、ふっと魔がさしたのであろうと、あきらめておりますのでございます」
「何の、心からの悪ものではないものが、そんなことをしようぞ。これ、お前は、このわたしの膝の上で、きやつの弁疏《いいわけ》をする気か」
「いいえ。決してそんな――」
「ええっ、聞きとうないわ。こりゃ、もしその茶坊主が死んでおったら、お前はわたしに、身もこころもくれることであろうな」
「それはもう、たとえあの人が生きておりましても――と申し上げたいのはやまやまでございますが、何だか、気になりまして――」
「うむ――」
若松屋惣七の顔を、けわしい剣気が、刷《は》いて過ぎた。これは、お高が夢にも知らない、流山《りゅうざん》一刀流の[#「流山《りゅうざん》一刀流の」はママ]剣士としての惣七である。一抹《いちまつ》殺闘の気が、男の胸から、お高にも伝わったのであろう。お高は、ひょいと、あどけない顔をふり上げて、惣七を見た。
「まあ、こわ! 何を考えていらっしゃいます
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