男でございました。あんなのを、山師、とでもいうのでございましょうか。しじゅう、何かしら、大きな商売などをもくろんでいたりなどしまして、それをまた、不思議に、人さまが真に受けるのでございます。でも、心のしっかりしていない、弱い人でございました」
「家を出て、どこへ行ったのかな」
「はい、何でも風のたよりでは、京阪《かみがた》のほうへ、もうけ話をさがしにまいったとかいうことでございます」
「それは、きやつが、奥坊主の組頭《くみがしら》をやめてからのことだな」
「さようでございます。やめまして、小普請お坊主として、からだが自由《まま》になるようになってから、まもなくのことでございました。わたくしがいやで、いやで、顔を見るのもいやじゃと、しじゅう口癖のように申しておりました」
「お前を、か。何と男|冥利《みょうり》に尽きたやつじゃな」
「あら、でも、人はみな好きずきでございますから、そんなこと、とやこう申す筋あいではございません。それからわたくし、高音という名を高とあらためまして――」
「もうよい、よい。あとは聞かんでも、わかっておる。だが、しかし、二千両持ち逃げしたとは、そりゃ、はじめからた
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