ぐに上げた惣七の顔が、白く、引き締まって見えた。

      六

 お高の声が、惣七のふところから、揺れ上がった。
「この借銭だけは、わたくしひとりの手で、返させていただきとうございます」
「強情な。しかし、それも、面白かろう」
「はい。何とかして、わたくしひとりの手で返金して、さっぱりいたしとうございます」
「うむ。やってみるがよかろう。やってみなさい。わたしも、先方へ口添えをしておきます。その磯五の店の暖簾ぐるみ買ったという男、つまり新しい磯五だが、わたしは、その男を、すこしも知らないのだ。が、文通はあるのだから、いずれ、よく伝えておきましょう。なに、案ずることはない。ただ、わたしにその金を出させてさえくれれば、なんのいざこざもないのだがな」
「いえ。そればっかりは――それでは、あんまりもったいのうございます」
「では、その茶坊主のことなりと、いますこし聞かせてくれぬかな」
「はい」
「さしつかえあるまい」
「なんのさしつかえが――それは、それは、見得坊な、とんと締まりのない男でございました。それに、鬼のように情け知らずで――でも、よく頭のまわる、はし[#「はし」に傍点]っこい
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