る渋茶を飲んだし、国平は、黒光りのする広い台所で、飯|茶碗《ちゃわん》に地酒をもらって、うまそうにぐびりぐびり音をたてていた。青い色とにおいを持つ風が、家を吹きぬけていた。国平は、まもなく板の間に手まくらをして鼾《いびき》の声を聞かせ出した。お高が困って起こしに立とうとすると、庄之助さんもお婆さんもあおぐような手つきをしてとめた。
まわりの田畑があまりきれいなので、お高が、そのことをいうと、庄之助さんは得意げに笑うのだ。
「地主さんがわかった人ですから、わたしどもも大助かりなのです。江戸の後家さまでおせい様というのです」
お高は、過去が一時に頭の上に落ちてきたように感じて、ぎょっとした。
「江戸のおせい様といって、それは雑賀屋のおせい様でございますか」
わかりきったことをきいた。庄之助さんがうなずくとお高は、暗い心になった。識っているのかときいた庄之助さんには、ただ聞いたことのある名だとだけ答えて、お高は、いそがしく考えていた。庄之助さんは、その、お高の変化には気がつかずに、手を伸ばして、裏手の田んぼの中に木に囲まれて建っている上品な構えの家を指さした。
「あれがおせい様の出寮で
前へ
次へ
全552ページ中365ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング