身代を受け継いでたいそうな気骨を折ることはまッぴらだと思った。
 そう思って、こころをまぎらすためにとんきょうな国平が何か面白いことをいうたびに、飛び出すような笑いを笑って、ぶらぶら歩いた。
 青柳町《あおやぎちょう》から護国寺《ごこくじ》の前を通って、田んぼのあいだを行くと、そこらはもう雑司ヶ谷であった。一面の青い色が、お高をよろこばせた。一団の桜樹《さくら》が葉になって、根元の土に花びらがひらひらしているところもあった。百姓家でははねつるべの音がきしんで、子守《こもり》が二人を見送っていたりした。
 大久保彦左衛門《おおくぼひこざえもん》様おかかえ屋敷の横から鬼子母神へ出て、お参詣《さんけい》をすました。鬼子母神様は、内拝につどう講中の人でこんでいた。物売りなども出て、それはそれは大変なざわめきであった。お高は、信心よりも野遊びに来たので、そのにぎわいは好ましくなかった。大行院《たいこういん》の拝殿へまわって、由来を読んだりした。
 ここに納めてある尊像の出たところは、いま通り過ぎて来た音羽《おとわ》の護国寺から坤《ひつじさる》の方角に当たる清土《きよづち》という場処で、そこへ行く
前へ 次へ
全552ページ中363ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング