はら》であった。兄弟があっても、なくても、相良寛十郎という人物が二人いたことや、お高の祖父の柘植宗庵が築いて娘のおゆうに伝えた富が消えていることや、これらは不思議として葬らるべき性質のものではなく、満足に説明さるべきだと思った。
 一空さま、手近なところで、和泉屋の内幕から調べていこうと考えていた。ほかにも手がかりの心当たりがないでもなかった。むかしの愛人の娘ではあり、ことに血がつながっているので、一空さまは、そうやっていろいろ努力することを、お高に対する義務であると考えていた。一空さまじしん興味のある探査でもあった。
 二十七日は水いろにかわいたのであった。それでも、空には、春らしい濁りがあって、どうかすると、濡れた微風が街道を吹いてきて、お高の襟足をくすぐるのだ。
 お高は、国平とならんで、本伝寺《ほんでんじ》横町から富士見坂《ふじみざか》のほうへあるいて行った。お高は、身軽にして来た服装《なり》と、手ぬぐいを裂いて草履を縛ってある足ごしらえとで、これだけのことでも、もう十分に旅に出た気になって、楽しかった。何もかも忘れていた。忘れようとしていた。男の兄弟などないほうがいいし、母の
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